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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)76号 判決 1978年7月04日

上告人

綾部和人

右法定代理人親権者

綾部素雄

右訴訟代理人

浜田耕一

原田豊

被上告人

神戸市

右代表者市長

宮崎辰雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浜田耕一、同原田豊の上告理由書及び上申書記載の各上告理由並びに同原田豊の補充上告理由について

原審の確定したところによると、(一) 上告人(当時満六歳)は、昭和四四年八月四日午前八時ころ被上告人の管理する神戸市長田区房王寺町二丁目一七番地先道路(以下「本件道路」という。)南側端に設置してある防護柵(以下「本件防護柵」という。)を越えて約四メートル下の夢野台高等学校の校庭に転落し、頭蓋骨陥没骨折等の傷害を負つた、(二) 本件道路は、昭和三五年ころには右校庭から路面までの高さが約二メートルにすぎなかつたが、その後の土砂の流入や道路舗装工事等により次第に路面が高くなり、前記事故当時にはその高さが約四メートルに達し、子どもの転落事故が数件発生したなどの事情により住民の声もあつて被上告人が昭和四〇年本件防護柵を設置した、(三) 本件防護柵は、二メートル間隔に立てられた高さ八〇センチメートルのコンクリート柱に上下二本の鉄パイプを通して手摺とし、路面からの高さが上段手摺まで六五センチメートル、下段手摺まで四〇センチメートルであり(神戸市内において1.5ないし6メートルの高低差のある場所における道路の防護柵は、路面から手摺までの高さが五二ないし六五センチメートルである。)、右鉄パイプは、この種の柵に通常用いられる丸棒状のものであつて、幼児がこれを遊び道具とするのに好適なものではなかつた、(四) 本件道路付近は、住宅地で昼間車両の通行量が少なく、付近に適当な遊び場所がないため、本件道路が子どもらの遊び場所となつており、親は転落の危険をおそれて子どもに本件防護柵で遊ばないよう注意を与えていた、(五) 上告人は、本件防護柵の上段手摺に後ろ向きに腰かけて遊ぶうち誤つて転落したものと推認されるが、右防護柵設置の後他に子どもの転落事故が発生したとか、住民が被上告人に対し事故防止措置をとるよう陳情したとかいう事実はいずれも認められない、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができる。

ところで、国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、前記事実関係に照らすと、本件防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤つて転落するのを防止するために被上告人によつて設置されたものであり、その材質、高さその他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい六歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたということができる。したがつて、右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあつたとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである。本件道路の設置又は管理に所論の瑕疵はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(天野武一 江里口清雄 高辻正己 服部高顕 環昌一)

上告代理人浜田耕一、同原田豊の上告理由、上申書、同原田豊の補充上告理由<省略>

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